花やしきの住人たち3巻と「いい仕事」の話
花やしきの住人たち (3) (角川コミックス・エース 121-9)
- 作者: 桂明日香
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2009/01/26
- メディア: コミック
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<以下ネタバレ注意>
最終巻でした。なんかあっさり終わっちゃいましたねえ。
2巻で急転直下の展開になり、この先が非常に楽しみだったんですが、正直な所3巻でバタバタッと風呂敷を畳んでしまったような印象を受けます。直感的にはあと2巻分、つまり全5巻くらいで描けば傑作になったように思います。勿体無い。
何ですかね、2巻の鬱展開が不評だったんですかね。私なんかはああいう容赦の無い過去描写があってこそ、ハッピーエンドのカタルシスが増すと思うんですが。
思うに、1巻の前半があんな感じでコメディタッチだったので多数の読者に「男一匹in女子寮の明るいラブコメ」だと思われちゃったんでしょうなあ。2巻あとがきで桂先生が「本当に書きたいのは暗くて重くてシリアスな話だけど…」って言ってる事からも分かるとおり、多分先生が本当に描きたかったのは「桜、あやめ、れんげ、杜若の4人の若者の重い過去と再生」だと思います。しかし「明るいラブコメ」を期待してた受け手(読者)にとって恵庭姉弟編の暗さ重さはショッキング過ぎて受けが悪く、この度の早々の終幕になってしまったのではないかと。ま、勝手な想像ですが。
ただ、もちろん自分としては十二分に面白く読めました。さっきも書いたとおり「勿体無い」という気持ちはあるけれど、少なくとも「あやめ・杜若編」に関しては一応の起承転結までついていて、非常に良い内容でしたので。個人的にはもっと後腐れの無いハッピーエンドが好みで、「闇を抱えながらも生きていくしか無い」というラストは一寸残酷と思う一方、登場人物の悩みから目を逸らさないと言う意味では凄く優しいラストだと感じました。
で、こういう話が描けるだけに、桜編とれんげ編をきっちり描いてたら、以下のシーンの重みや感動といった物も全然違ったと思うんですよ。
*3巻のラスト近くで4人が笑いあう場面。凄く良い絵なのに…勿体無い。
さて、ここからタイトルに謳った「いい仕事」と、その「勿体無い」の話になるのですが、その前にまず「いい仕事」について説明します。
田中ユタカ先生描く、編集者と女性漫画家の恋愛物「もと子先生の恋人」を先日読んだのですが、その中で本筋以外で一番良かったのが編集長が酔って饒舌になる話。そこにこんなシーンがありまして。
この後、主人公(若手編集者)が編集長に「じゃあ良い仕事とは何だ?」と問われて答えられない場面があります。そこで自分も考えました。漫画の「いい仕事」って何だろう?と。
そこで思い至ったのが「いい仕事」ってのは「納得が行く仕事」なんだろうな、って事。それは漫画家だけが納得の行く独りよがりの仕事ではなくて、編集者も納得が行く=締め切りに間に合っていて、クオリティを保っている仕事であり、かつ読者も納得が行く面白い漫画の事なんじゃないでしょうか。
忌憚の無い言い方をしてしまうと、そういう意味でこの「花やしきの住人たち」という作品は「いい仕事」に後一歩でなり損ねてる気がするんですよ。それが本当に「勿体無い」と思うんです。
多分、他連載とのタイミングとか「大人の事情*1」とか読者の反応とか、いろいろあったんでしょう。それでも編集者だけは桂先生に「いい仕事」をさせてあげて欲しかった*2。桂先生に重くてシリアスで優しい作品を描くように仕向けて欲しかった。
…まあ、それが中々難しいから、本当に「いい仕事」を我々が目にする事が少ないわけですけどね。
ただ、今回の作品で桂先生が重くてシリアスな漫画を描く能力を持っている事が良くわかりました。確かに「花やしき」はちょっと勿体無い終わり方でしたけれど、ラストシーンの言葉を借りるなら、せめて「いつの日か その血から花が咲きますように」と祈って次回作を待つとしましょう。
ガツンと重いの、期待してます。