夏目友人帳 1巻

「小さい頃から時々変なものを見た。
 他の人には見えないらしい、それらはおそらく

 妖怪と呼ばれるものの類」


夏目友人帳 (1) (花とゆめCOMICS)

夏目友人帳 (1) (花とゆめCOMICS)


 漫画賞にノミネートされたりアニメ化だったりで最近良く名前を聞くようになったので、どんなもんじゃろかとまずは1巻を買ってみた。妖怪物は好きですしね。

 物の怪が見える少年、夏目は「彼等」が見える事であまり良い思いをしないで育ってきた。両親を亡くしてから後、親戚の所をたらいまわしにされていたのも、見えないものが見えると言う彼が気味悪がられた為。

 しかしある土地に転校した時、物の怪達が随分と彼に絡んでくるようになった。彼らが言う事には「名前を、返せ」と。訳のわからない夏目に事の次第を話してくれたのは、妖怪に追われる最中で壊してしまった祠から出てきた、招き猫の姿をした妖怪「先生」。

 先生曰く、「その昔、物の怪を見る力があり、その上強力な妖力を持っていたお前の祖母レイコはこのあたりの妖怪と勝負してはその名前を台帳に集めた。その不思議な台帳に名前が書かれている妖怪は、その持ち主の言葉に逆らえなくなる。だから妖怪達はレイコに似ているお前に名前を返せ、返せと言うのだ」と。

 祖母の遺品の中から台帳を見つけた夏目は、先生と共に亡き祖母に代わって妖怪達に名前を返していく事に決めた。


 その台帳は、数多の妖怪を統べる力を持つ呪具に似つかわしくない名を持っていた。


 台帳の名は、友人帳――。

 あらすじはそんな感じ。名を返せと迫る妖怪とのアクション物の側面と、妖怪と人間の心の触れ合いを描いた側面を併せ持った、ちょっと変わった視点の妖怪漫画。なるほど、これは面白いわ。

 現行作品では「蟲師」が一番近い雰囲気なのでしょうが、あの「蟲は常に傍らに在るが、完全に理解するのは不可能」というような一種突き放した雰囲気*1とは違って、この作品では妖怪達がもっと人間に「近い」存在として描かれています。彼らが怒り、悲しみ、そして喜ぶ様はまるで人間のよう。いや、元々感情に人間も物の怪も無いのかも知れません。だから、彼らと人間は時に争い、時に友人となる。そういう暖かさがこの漫画の底には流れています。

 物語の雰囲気や絵柄としては全く違いますが、「人間と物の怪の間を異能の力を持った人間(奇形)が橋渡しする」という構造においては「うしおととら」に最も近いのかも知れません。

 
 こちらは小さな妖怪の為に骨を折ろうとしている夏目が、他の妖怪に「お前はなぜ自分の利にならぬような馬鹿な真似をするのか」と問われ、答えるシーン。

 夏目少年の素直さ・直情さが良く出ているシーン。ちなみに左のコマで「馬鹿ったれめ」と言っているのが「先生」。普段は招き猫の姿をしていますが、本体は狐(お稲荷様?)の姿。「馬鹿め」という台詞は夏目の世話焼きに付き合わされる故のボヤキです。

 思うに、物の怪に対するレイコや夏目少年の一番の武器はこういう「情」なのかも知れません。だってその武器を持ってすれば、彼らと「友人」になる事が出来るのですから。


 全体的にも面白かったですけど、この巻で一番気に入ったのはこのコマが出てくる第四話の燕の妖怪の話。詳細は書きませんが、じわりと沁みる実に良いお話でした。ラストの写真が出てくる場面ではグッときてしまいましたよ。これは良い。


 そんな訳で充分過ぎるほどに「売れてる」という事に得心がいきました。続刊もちまちま集めて行くとしましょう。楽しみ楽しみ。

 
 
  

*1:アレはアレで良いのですが