戦国妖狐と散人左道と百鬼町の話


 

戦国妖狐(1) (BLADE COMICS)

戦国妖狐(1) (BLADE COMICS)

 
 「惑星のさみだれ」の水上先生が描く戦国妖怪退治アクション漫画。面白い!自分が元々妖怪漫画が大好きという事もあるのに、その上ソイツを水上先生が描くってんだからファンにはもう堪らない。とてもじゃないけど冷静になんて読めません。「ぴよぴよ」「げこげこ」収録の百鬼町シリーズとか大好きなんですよ。


 さて、こちらの「戦国妖孤」、発売からちょっと経ってしまったので普通の感想は他のブログを見てもらうとして(オイ)、自分はちょっと切り口を変えて「水上妖怪漫画」という括りで共通点でも挙げてみようかと。ま、既に「黒月」の共通性についてはネット上で散見されていますけど、水上ファンとして自分なりにまとめてみようと思った次第。


 <当然ながら過去作品のネタバレをほんのり含むのでサラで読みたい人はご注意を>


 *以下、「戦国妖孤」「散人左道」は作品名、「百鬼町シリーズ」は短編集「げこげこ」「ぴよぴよ」に収録の3編を総称しています。知らない人の為に、一応。
 


<妖怪の呼び名>


 水上漫画における妖怪は、常に「傍らにある、居ないけど居る、不思議な存在*1」として描かれています。呼び方については以下の通り。


・「散人左道」では「隣人」。ただし、害をなすものについては「障り(さわり)」と呼称。

・「百鬼町シリーズ」では「おとなりさん」。共通点というか、元々百鬼町シリーズ自体が「散人左道と同じ世界観*2」で描かれている。

・「戦国妖孤」では「闇(かたわら)」。こちらでは「障り」は「障怪さわり」と書く。


 「散人左道」「百鬼町」が現代の妖怪譚で「隣人」「おとなりさん」という暖かい呼称であるのに対し、「戦国妖孤」では「闇」という字を当てた禍々しい呼称となっています。作品の雰囲気にも沿ったものになっているようです。


<札>

 仙術を使う者が札(フダ)を使って戦うのは「散人左道」も「戦国妖孤」も同じ。また、書式も似ています。


・散人左道でフブキが使う札

 
 
 札の文字は「此剋彼」とあります。「此方が彼方を剋す」という意味の攻撃符のようです。他には「一閉一」…「四閉四」といった数字の結界符も使います。


・戦国妖孤で迅火が使う札

  

 文字は「土拳土」。大きな土塊の拳が敵をぶっ飛ばします。


 ともに真ん中の文字が大きいのが特徴。真ん中の大きい文字が札の「行動」を表していて、上下の文字は「目標」「手段」を表す補助のようです。


<妖精眼>

 左右の瞳の色が違う、特殊な能力を持つ目。個人によって能力は様々。また、妖精眼を持つ者は双子で生まれる*3


・散人左道の「よる」。特徴…可愛い(私見)。

 よるの能力は「流れ」を読む事で、近距離の未来視のようなもの。他にはフブキの師匠「法鉄」と、その双子の弟「軌鉄」も妖精眼の持ち主として登場します。


・戦国妖弧の迅火。

 妖精眼という明確な表記はありませんが、見ての通りのオッドアイ。「精霊転化」は妖精眼でなくても出来るみたい*4だし、迅火の目には何か他の能力or秘密があるのかも知れません。もしかしたら双子の兄弟も出てくる、かも。



<斬妖剣>

 人間が妖怪を切るための剣術の事。


・短編集「ぴよぴよ」収録の「魔界斬妖剣・ドキドキ地獄変」の主人公・不知火一重が使用。兜を被って日本刀持った女子高生の退魔師が恋をするというコメディ物。


・戦国妖孤の兵頭真介が目指す剣。つまり1巻の時点では未修得。かたわら「鬼兜」に白羽取りをさせた事から、真介は自分の剣はいつか妖怪を斬れると思い込み、修行の為に迅火とたまの世直しの旅に同行する。


 斬妖剣という流派・剣技があるわけではなく、妖怪を斬れる剣捌きの事を単に「斬妖剣」と称していると思われる。


<精霊転化・精霊憑依>

 人間が妖怪の力を一時的に借りる術。術を使っている間は半人半妖となり、化物じみた力を行使する事が出来る。時間制限があるのが特徴。


・散人左道ではフブキがラストバトルで「精霊憑依」を使用。霊力の塊である黒布「くろがね」の力で一時的に隣人の力を得た。また、ラスボスの「軌鉄」は完全に隣人に生まれ変わる術「精霊輪廻」を使用。半妖の精霊憑依よりも強力な力を得る事ができるが、人の身を引き換えにしなければならない。



・戦国妖孤で迅火が「精霊転化」を使用。妖孤たまの血を吸うことによって四尾を持った人狐に変化する。吸血の量によって変化している時間も変わる様子。術の間、迅火は人から闇に、たまは闇から人に近くなる。人間嫌いの迅火は「完全に闇となること」、つまり散人左道で言うところの精霊輪廻を望んでいる。戦国時代ではその方法が確立されていない所を見ると、精霊輪廻という邪法を開発したのが迅火なのかもしれない。


<黒月>

 仙道に関わるキーワード。

・散人左道では「左道黒月真君」として登場。個人名ではなく、師匠から弟子へと受け継がれていく流派の名前。劇中では法鉄からフブキへ受け継がれている。「正道にあらざる者、故に左道」というフブキの台詞からすると、妖怪を倒す「正道」がある様子。


・戦国妖孤では個人名の「黒月斎」として登場。黒月斎は迅火の師匠で、「不死鳥殺し*5」と言われる程の強さを持っていたが、劇中では既に死去。


<黒布>

 霊力の塊である黒い布。意志を持っており、攻撃的。人にとりついたりする事も出来る、いわば「隣人」に近い存在。


・散人左道では元々フブキの物。彼が精霊輪廻に失敗して暴走しかかった際、師・法鉄は霊力を黒布の形にして取り出した。しかし霊力そのものである黒布は不安定かつ攻撃的。やがて取り付かれた雲井いろりが「くろがね」という名前をつける事によって霊的に安定した。フブキから切り離された黒布に対し、いろりは父親に顧みられない自分自身を重ね合わせて見ていたと思われる。当時いろりは「名前は個を縛る最強のしゅ*6」である事を知らず、単純に名無しの化物への「情」を持って行われた「名付け」が、結果として最良となった点が実に興味深い。水上先生のテーマ性が垣間見える話です。

 
・百鬼町シリーズの「風穴頭と百鬼町」*7で成長したいろりが黒布を纏ってゲストキャラとして登場。くろがねの扱いに慣れ、「黒天女」と呼ばれて「おとなりさん」達から恐れられているが、意味の無い殺生はしない様子。


・戦国妖孤では黒布ならぬ白布の式神が登場*8。霊力を布に込めるという理屈は散人左道の黒布と同じ。

 さて、こんな所ですかね。まあ共通点がわかったからって何という事は無いんですけれども、ファンとしてはこういうサービス精神が嬉しいわけで。もちろん「戦国妖孤」も単体で読んでも面白いですけど、他の作品も併せて読むとより楽しいよ、って事で。


 

散人左道 1 (ヤングキングコミックス)

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散人左道 2 (ヤングキングコミックス)

散人左道 2 (ヤングキングコミックス)

 
げこげこ―水上悟志短編集 (ヤングキングコミックス)

げこげこ―水上悟志短編集 (ヤングキングコミックス)

 
ぴよぴよ―水上悟志短編集 (ヤングキングコミックス)

ぴよぴよ―水上悟志短編集 (ヤングキングコミックス)


 ちょこっと毛並みの変わった水上節が見たい人には短編集2冊がオススメ。ゆるゆる後に超熱血という王道水上節を読みたい人には散人左道がオススメ。つまり全部オススメです。是非!




  • 超余談


 ところで戦国妖孤で気になる点が一つ。舞台が室町時代って事は、ですよ?め…眼鏡っ娘が出てこないんじゃないのかッ?


 いかんいかん。それはいかんですよ。「散人左道」のよる然り、「げこげこ」のななみ然り、「惑星のさみだれ」の氷雨姉さんや花子然り、この人の描く眼鏡っ娘って結構好きなんですよ。


 先生、これはもうアレだ。時代考証とか無視して眼鏡っ娘出してくださいよ。是非!

*1:「げこげこ」収録の「龍と少女と百鬼町」作品解説より引用

*2:同じく「げこげこ」収録の「龍と少女と百鬼町」作品解説より引用

*3:「散人左道」の設定では

*4:フブキは妖精眼を持っていない

*5:=死なない者すら殺す

*6:散人左道2巻142P

*7:短編集「ぴよぴよ」収録

*8:第6回