人斬り龍馬
- 作者: 石川雅之
- 出版社/メーカー: リイド社
- 発売日: 2005/05/12
- メディア: コミック
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例えば「最終兵器彼女」のように、イメージの全く違う単語を組み合わせるのはインパクトがあるタイトルを作る方法の一つだ。(30才以上の方には「セーラー服と機関銃」と言えば良いだろうか。…つーか古っ!)
今作も坂本龍馬+人斬りというおよそイメージの違う単語を組み合わせて出来ていて、書店で見た時つい「あの龍馬が人斬りを?」とタイトルで引き込まれてしまった。これが石川雅之作品とのファーストコンタクト。これを読んで一気に石川氏のファンになってしまい、現在に至る。
実際は表題作「人斬り龍馬」を含む4本の短編を収録した作品集。
中でも「人斬り龍馬」と「神の棲む山」が出色の出来。
<人斬り龍馬>
時は幕末。新撰組の隊士と京都見廻組の隊員が次々と闇討ちに遭い、斬殺されていく事件が起こる。その犯人は幕吏に追われてこう叫ぶ「才谷も西郷も偽名よ ホンマの名前は土州の坂本龍馬じゃ!」。銃で幕吏を威嚇し、逃げおおせた龍馬。やがて人斬りの正体を知った新撰組の近藤勇は血眼で龍馬を追うが・・・。
以上あらすじ。面白いのは、人物がでかすぎるせいか全てをおちょくっているように振舞う龍馬の姿と、仲間の無念を晴らすため近づけば火傷せんばかりに熱くなる近藤の姿の対比。
人斬りの事を「どうでもエエがァそんな事ァ」と言い、思想に関しても「小せェ小せェ!攘夷じゃ佐幕じゃ朝敵じゃ逆賊じゃ うんぬんやかましいだけでどうでもエエぜよ」と言ってのける龍馬。この作品の龍馬は他の作品で描かれている龍馬に輪をかけて「面白い事好き」というか「でっかい事好き」に描かれているようだ。
ただ、だからと言って人を理由なく殺して良いわけがない。この作品で龍馬に対して怒りを覚えるのは、彼が無思想(のように見える)であるにもかかわらず人斬りを続ける事であり、それは近藤や見廻組の佐々木の怒りにシンクロする。
坂本龍馬が大人物であることに異論は無いが、同時代で言うなら新撰組の方に惹かれるという人は是非。あ、龍馬好きにも是非。こんな龍馬像もあるよって事で。
- 余談
「おーい竜馬」とかでもそうだけど、坂本龍馬って美化されすぎてない?確かにものすごい大人物だってのは業績を見れば判るけど、ちょっと見方を変えるとありとあらゆる人を手玉にとって、その上で自分以外の人間の無念や怒りを意に介さず飄々としてるってイメージがあって、どーも好きになれない。確かに時代を変える為には些事にこだわるような人物では務まらないのだろうけど、人間的にどうかと言われるとやっぱ近藤や土方の方に惹かれちゃうなあ。
たとえ市井から壬生狼と蔑まれようと、後世から見れば意味の無い事だろうと、信念を持って生きる人間ってのは魅力的ですよ。正しいか間違ってるかなんて他人に決めさせれば良い事。自分で正しいと思う事を断じて行えないなら、何を持って「自分」と為すのか。
- 余談2
カタリベ然り、人斬り龍馬然り、何でSPコミックスの石川雅之作品ははまぞうでイメージ出ねえのよ。もやしもんは出てんのに。今回に限った事じゃないけど、好きな漫画のイメージが出ないってなんか寂しいなあ。