カタリベ

 

カタリベ (SPコミックス)

カタリベ (SPコミックス)

 「もやしもん」で有名になった石川雅之の海洋冒険物。すっかり作者縛りなので迷わず購入。
 南北朝時代を舞台に、少年カタリベが成長していく様を描いた作品。誰にも与さぬ海賊マエカワ、瀬戸内海賊村上氏の娘吏英(りえ)、人外の存在バハン様、海洋商人の三つ目&紅鶴など脇を固めるキャラたちも非常に魅力的で、それだけに中途半端に終わってるのが惜しい。ちょっと気張って詰め込みすぎたか?あるいはカタリベを壁にぶつからせる為とはいえ苛めすぎたか?(カタリベの判断がいくらなんでも裏目に出る事が多すぎ)
 いずれにせよ、舞台と登場人物と道具仕立てがこれだけ揃ってんだから、じっくり単行本5巻分くらいかけて描けば結構な良作になっただろうに。もったいない。

 あとやっぱり主人公がカタリベである以上、彼に感情移入できないと辛いな。道に迷ってるせいもあるけど、主人公が地に足が着いていないもんで、どうも「応援しよう」「頑張れ」という気が出てこない。
 逆にマエカワ・エボシ・胡蝶・鬼達を主軸に、カタリベに(その名の通り)語り部的な役割を持たせて描いた群像劇にすればもっと面白かったんじゃないか?というか石川氏本人にもこの漫画を「カタリベの成長物語」にするか「群像劇」にするかで迷っていたようなフシが見られるが。してみると今回書き下ろしの表紙はまさにカタリベが「語り部」の視点で動乱に生きる人々を見ており、こういう作品として見て下さいという作者のメッセージのようにも見て取れる。

 まあ、とはいえ終わってしまった作品にあれこれ言っても詮無い事。「人斬り龍馬」を読めばわかるとおり、稀有の歴史物を描く力のある作家さんだってのはわかってるんで、いずれまたこの分野で大作を描く事を信じてます。


  • 余談

 もしかして(当時の)石川氏は4色カラー苦手か?色使いがビビッド過ぎて目に痛いんですけど。ただ、表紙と第一話のトビラを見比べれば判るとおり、最近では上手になってきている。