惑星のさみだれ 8巻と希望と絶望の話


「東雲さんを あなたを超えて行きます」

惑星のさみだれ 8 (ヤングキングコミックス)

惑星のさみだれ 8 (ヤングキングコミックス)


 今確実に面白い王道少年漫画「惑星のさみだれ」の8巻が出ました。今月はもうこれが楽しみで楽しみで。

 ちなみに今巻の最大の燃え所は冒頭に台詞を抜き出した東雲半月VS雨宮夕日戦。いやーもう遂に師弟対決ですよ。2大ヒーロー大激突ですよ。東映まんが祭りですよ*1。燃える!拳を握り締めて読め!熱いぞ!


 さて、というわけでここから先はネタバレありの秘密の花園。未読の人は本屋さんへ走るが吉。

 今日はちょっと趣向を変えて、普通の感想じゃなくて8巻のテーマについて少し書いてみます。



<死者のいない偶数巻>

 さみだれファンにはちょっと有名な噂話として「偶数巻で人が死ぬ」というのがあります。2巻では東雲さん、4巻では師匠、6巻では太朗の死が描かれ、それぞれ奥付前でいかにも彼等らしい後ろ姿を見せていました。

 ところが、8巻では犠牲者は誰もいません。強いて言うなら南雲さんに死亡フラグが立ちかけましたけど、彼は「五千円返せ!」という素晴らしい台詞と共にフラグをぶっ飛ばしてくれました。


 これは偶然でしょうか?


 もちろんその前のアニマと南雲さんのやりとりを含めてギャグとして成り立っている場面ではありますが、ちょっと考えると面白い事が見えてきます。

 それは8巻で死者が出なかった理由。もちろん、単純に言ってしまえば「獣の騎士団は強くなった」というだけの話なのですが、8巻のサブタイトルである『精神』をキーワードに、その辺を掘り下げてみます。



<騎士達の精神>

 滅茶苦茶に強いマイマクテリオンとの戦い(2戦目)を死者なくして乗り越えた騎士達は、そこに至るまでにそれぞれの精神を成長させてきました。


 ・祖父の死をきっかけに祖父を完全に許し、また東雲さんとの戦いを「思考する力」をもって乗り越え、自信を得た夕日。

 ・自分の能力の限界に悩み、殻を突き破って「自由な発想」を得、全く新たな泥人形を作った風巻。

 ・夕日に再度直球で想いをぶつけ、今後の戦いへの意識を新たにした白道

 ・「同じ温度操作なら…」と考え、太朗の技「荒神」を使う事を考えた花子。*2

 ・三日月の「封天陣」と自分達の「最強の矛」を組み合わせる事を考えた昴と雪待。

 ・火渡の予言を受け、自分の前にしか出していなかったドリル領域を、前後に出すようにしていた南雲*3


 「精神を成長させた」「意識を変えた」「考えた」――言い方はどのようでもいいでしょう。確かに言えるのは、彼らはマイマクテリオンとの2戦目までに「何らかの心的変化」を意識的に行っているという事。


 そして、それこそが彼らを犠牲者なき勝利へと導いたのではないでしょうか。8巻はそのあたりの事を割とさらっと描いていますので見落としがちですが、私はどうにもそんな気がしてなりません。*4



<希望が視える者達>

 さて、8巻のラストで出てくる対ビスケットハンマー兵器、「ブルース・ドライブ・モンスター」もまた、ハンマーと同様に最早笑うしかない形でデデンと登場します。

 そしてそこでアニマは言います。

 「可視なる絶望の横に希望これが視える者達を 私はずっと待っていた」

 と。


 実はこのアニマの台詞と、P.128の南雲さんの台詞「あれ(ハンマー)は誰にでも視えるのだろう?絶望を確信すれば」という二つの台詞が、8巻を考える上で大きなヒントになっています。


 それは、彼らが希望が視えるようになったのは何故か、ということ。


 と、ここで先ほどのマイマクテリオン戦の話と繋がってきます。もちろん「次も勝てるかもしれない」という希望が彼らにその姿を視させているわけですが、そもそも彼らにその希望を抱かせたのはマイマクテリオン戦での勝利であり、ひいてはそれをもたらした彼らの精神の成長・心の在り様がその希望の大元になっています。

 そう、希望は空から降ってくるものではありません。考えたり悩んだりした者達だけに与えられる、絶望を打ち砕く唯一の武器なのです。

 『悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである』という言葉にもある通り、絶望を視るのは易く、希望を視るのには意志の力が必要です。


 今まで、「ありえないものを受け入れる選ばれしバカ達*5」だった獣の騎士団は、ありえないほどの絶望=ビスケットハンマーを遠くに眺めて過ごしてきました。

 しかし同胞の死を乗り越えてその魂と技を引き継ぎ、考え、悩み、成長した彼らは、それと同等に「ありえないほどに巨大な希望」を視る事が出来るようになったのです。

 星砕くハンマーを打ち砕く鍵が、畢竟人間の意志の力というのが、嗚呼もうなんとも燃える話じゃないですか。


 打ち砕く時は、間近。


 行け!獣の騎士団!!



  • 過去記事

「惑星のさみだれ」 1〜3巻感想

「惑星のさみだれ」 5巻感想

「惑星のさみだれ」 6巻感想

「惑星のさみだれ」 7巻感想

「惑星のさみだれ」のタイトルの意味


  • 余談

 絶望と希望、という話で考えると、3巻ラストで騎士団全員に対して「恐れるな!敵の強大さに絶望した時我々は死ぬ!!」という台詞や、8巻ラストでブルース・ドライブ・モンスターを見て笑みを浮かべていた所を見ると、やはりさみだれは指輪の姫として「希望」がある事を知ってたんだろうなあ。

 それでも言わなかったって事は、やっぱり希望は人から与えられるもんじゃない、って事か。いいね。


 

 

*1:意味不明

*2:で、マイマクテリオン戦で実際に「荒神」を使って見せた花子にオジサンいたく感動しましたよ

*3:これについては意識的か無意識的かは不明。ただ、理論派の南雲さんの事だから意識的にそうしていたと思います

*4:もちろん、かといって死んでいった3人の騎士が無思考で劣っていたわけではありません。彼らは物語の中で「受け継ぐ者」としての役割を十二分に果たし、それが故に今の獣の騎士団の力があるのですから

*5:6巻P.15。ロキの台詞