ささめきこと 5巻


「…大丈夫 何があっても風間の側にいるよ

 大事な友達だもの」


ささめきこと 5 (MFコミックス アライブシリーズ)

ささめきこと 5 (MFコミックス アライブシリーズ)


 アニメ化も決まって上り調子の百合ラブコメ第5巻。きっちり半年で新刊が出てファンとしては嬉しい限り。


 さて、前回の感想の予想通り、今巻からは汐の視点から物語が描かれていきます。両想いである事がこれだけはっきりしているのに、未だすれ違い続ける二人がもどかしくて切なくてたまりません。


 5巻は純夏と汐の対比と現状の確認を丁寧に描いているため、正直物語的な前進や盛り上がりは余りありませんでした。冒頭話の朱宮クンの退場劇にはかなり笑わされましたけど。「これが僕の宝物―」というモノローグが秀逸。誰がうまい事言えと。



(以下ネタバレ含む感想です。未読の方はご注意)




 純夏と汐の現在の状況を再確認した5巻は、「友達」と「嘘」をキーワードにして描かれています。そのへんをちょっと整理してみます。


<ずっと友達、という言葉の痛み>


 1巻と4巻では、汐が純夏に対して「ずっと友達でいてね」と言い、純夏はその言葉に痛みを感じていました。実際は1巻と4巻の「友達でいてね」は意味が違うのですが、汐の真意を計りかねている純夏は同じ物として捉え、傷ついています。


 それが5巻では逆転し、純夏が汐に対して「大事な友達だもの」と言い、汐はその言葉に大きく傷つけられます。「これは恋じゃない」と自分に言いきかせなければならない程の想いを抱えた汐にとって、当の純夏からのこの言葉は余りにもショックでした。あの無邪気な汐が、笑い方を忘れてしまうほどに。

 ちなみにこのくだりが今巻最大のハイライト。作り笑顔を見せる汐が切な過ぎて胸がぎゅうっと締め付けられましたよ。


 また、ここの話では二人が手をつなぐシーンがあるのですが、ここがまた巧い。というのも、4巻ラストの「蛇足の24*1」で描かれた、「手をつなぎたいな」という汐の望みがここに至って叶えられているにもかかわらず、それはあくまでも友達としての手つなぎなんですよね。それがまた汐にとって一層のダメージになるという。ああ切ねえ。

 手つなぎに関して言うなら、お互いの気持ちがここまで大きく育っていなかった1巻第1話及びその蛇足1においてのみ、所謂「恋人つなぎ」の形になっているのが興味深いです。気持ちに自覚的でない分、お互い自然にそうなったんだろうなー、なんて妄想してニヤニヤしまいます。


 さて、ここに至って、両者が「友達」という言葉の残酷さを知るに至りました。両者は当然ハッピーエンドになると信じて疑わない私ではありますが、「友達」という言葉の痛みをお互いがお互いに与え合っていた事を知った時、二人がどんな顔をするかが実に見ものです。



<辛い嘘をつく二人>


 純夏と汐、二人は互いに嘘をついています。


 汐の嘘は「これは恋じゃない」という自分の気持ちへの嘘。純夏の嘘もまた「見ているだけで幸せ」という自分の気持ちへの嘘。そしてどちらの嘘も動機は全く同じ。『ただ好きな人の側にいたいから』。


 5巻最終話「嘘と罰」では一旦純夏視点に戻って、汐がいつもの笑顔を見せてくれなくなった事・目を合わせなくなった事を「嘘の罰」として捉える純夏が描かれています。純夏は汐に酷い事*2を言った為に汐がいつものように接してくれなくなったと考えていますが、もちろん実際は汐が「恋じゃない」と自分の気持ちを無理に抑え込んでいるが故。


 互いに好きなのに、好きだから、辛い嘘をついてまでせめて友達でいようとしたのに、その嘘故に友達でいる事すら危うくなるほどにすれ違っていく。そんな二人が、見ていられないほどに哀しくて、切ない。

 二人が嘘をつかなくて良くなる日は、一体いつになるのか――。



 そんなわけで切なさを通り越して若干鬱展開ですらあった5巻。次の「キャッキャウフフ」への溜めと信じ、次巻を待つ事とします。

 展開が気になるラブコメは数あれど、ここまで『この子達に絶対に幸せになって欲しいっ!!』と思える作品は滅多にないですよ、ホント。


  • 過去記事

 →ささめきこと 1・2巻 感想

 →ささめきこと 3巻 感想

 →ささめきこと 4巻 感想


  • 余談

 あ、今気付いたんですけど、P.149と蛇足の30は対になっていますね。P.149はいるべきところに汐がいないという純夏の視点で、蛇足の30はその逆。たとえ本当の想いが通じなくても友達であれば、ふっと視点を落としたその先に見えるはずの人が、今日はいない。その寂しさ・辛さはいかばかりか。

 ああ切ねえなあ、もう!お前ら早く幸せになっちゃえYO!*3


  • 余談2

 楽しみにしてただけに、5巻の表紙はショックでしたねえ。今まで必ず純夏と汐が出てたのに、5巻では寂しそうな汐一人*4なんだもの。店頭で見てちょっとこみ上げるものがありましたよ。


  • 余談3

 正直ちょっと展開が冗長になっちゃってるのは、やっぱアニメ化の影響もあるんでしょうねえ。少なくともアニメが終了する3月までは漫画の方も決着つけるわけにいかない、って事で*5

 個人的にはハチクロみたいに1期は途中までにしておいて、2期で原作通りのエンディングまで持って行っても良いような気がしますが。「ささめきこと」はそれだけのクオリティがある作品だと思いますので。




 

*1:実際は蛇足どころか非常に素晴らしい短編です

*2:「私は小さくも可愛くもなれないからッ!」

*3:ウザ語尾

*4:しかも多分純夏の机を見つめてる

*5:オチが分かっちゃうとアニメの求心力がなくなるから