ささめきこと 4巻


「だから… すみちゃんとは ずっと友達」

ささめきこと 4 (MFコミックス アライブシリーズ)

ささめきこと 4 (MFコミックス アライブシリーズ)


 お互いがお互いを想いながらも、中々相手の想いに気付けない純夏(すみか)と汐(うしお)という二人の女子高生のすれ違いの恋を描いた百合ラブコメ第4巻。
 この漫画は登場人物達の「好き」を丁寧に丁寧に描いていて、読んでいて胸に迫る事しきり。彼女達の表情や言葉や仕草から「好きという感情」がもたらす甘さもつらさも喜びも苦しさも、これでもかと言うほどに伝わってきます。ああもうキュン死*1しそう。いいわあ。


<以下ネタバレ含みます。未読の方はご注意ください>

 さて、これ以上無いほどに気になる場面で続きになってた3巻から半年。危うく本誌を立ち読みしかける事数度。もうジリジリしながら待ちましたよ。

 で、そんな心持ちで開いた4巻冒頭話「Good Morning」。てっきりあの場面の続きから始まると思いきや、主人公二人でなくてその友達たちの話がつらつらと。「あらら、焦らすじゃないですかセンセ。そりゃないよ!」と一読した時は思ったのですが、これが4巻後半でぐいっと生きてくるのだからやはりこの人の構成力は只事じゃありません。その辺の話はまた後で。


 そんな冒頭話の次、「彼女の蹉跌」はいよいよあの場面の続きのお話でした。

 汐が純夏に扉越しに「ずっと友達でいてね」と言った理由も、抱きついた理由も、ここでは明確に描かれます。その「ずっと」の重みも、「友達」の重みも――そして汐が過去に負った心の傷が、本当に好きな人=純夏に対する気持ちのブレーキになっていた事も。

 そして抱きついてしまった事、キスしてしまった事を思い返して、純夏が帰った後にベランダでボロボロ泣く汐。それは過去の心の傷がもたらした、純夏も同じように拒絶するのでは、という恐れ故。ああ、「好きな人に嫌われるかも」という疑念だけでここまで泣ける想いが、本気の恋でなくて一体なんだというのだ。

 個人的には抱きついた時よりも、キスした時よりも、このシーンで「汐が純夏が好き」という事実が完全に腑に落ちました。

 もう4巻で一番良かったのがこのシーン。切なくて苦しくて、恥ずかしながら貰い泣きしましたわ。


 そして一夜明け、「これは恋じゃない」と自分に言い聞かせる汐。破れるのが怖いから、拒絶されるのが怖いから「恋じゃない」と思い込もうとし、「ずっと友達」と言い続ける――その情動こそが何よりも確かな恋の証拠である事に、半ば気付きつつも。

 ああ、良い。本当に良い恋愛話を描くねえ、いけだ先生は。


 ちなみにこの一話では初めて汐視点オンリーで話が進みます。これは、1〜3巻が「純夏から汐への想い」を主軸として描かれてきた物語が、「汐から純夏への想い」あるいは「すれ違う二人の想い」を描く物語へシフトするターニングポイントである事を表していると思われます。



 さて、そんな重要話の後は過去編「Early Days」に突入。古来過去編ってのは引き伸ばし展開に良く見られる話なので、これまた「そりゃないよ!」と思ったのですが、読むと面白いからまた困ったもの。その上、ちゃんと過去編に意味を持たせてるんですよね。それが巧い。

 過去編全4話で描かれているのは中学時代の二人。お話としては「汐と純夏が友達になるまで」「純夏が汐を好きになるまで」のエピソードなのですが、ここではそれらの過程を用いて「同性愛」というテーマに対してちょっと突っ込んで描いています。つまり単に過去編をやるんじゃなくて、「百合ラブコメ」という作品構造に対しての説明が為されてるんですよ。この過去編があるお陰で、これまでの物語もぐっと深みを増したように思います。


 で、自分が「あっ凄いな」と思ったのがこちらのシーン。

 こちらは汐の事を好きになり始めてる純夏が、「自分は(風間と違って)普通だもの」と思い込もうとしているシーンです。純夏からスーッとカメラが引いていって、修学旅行の朝食風景の俯瞰で丸1ページぶち抜き。居並ぶたくさんの「普通の人々」。
 ここで巧いなあと思うのは、敢えて規則的に並んだ多くの生徒達を大ゴマで描く事によって、「あれ?じゃ普通ってなんだ?みんな同じって事か?違うよな」という思いを、読者の中に想起させるように仕向けてる事。

 で、パラッとページをめくると再度カメラに寄られた純夏のモノローグで「――違う」と入ります。ここで純夏は「みんな違うのが当たり前。違うのが普通」という事に気付くのです。そしてまた同性を好きになってしまうのも、(一般的ではないけれど)「普通の事」で、汐も自分自身(純夏)も「普通の人間」なのだと。


 で、ここで4巻冒頭話「Good Morning」の話に繋がってくるのですが、ここで描かれているのは各脇役たちの様々な朝の風景なんですよね。彼女達は百合カップルだったり、女装っ子だったり、オタクだったりと、それぞれがちょっとアクの強い個性を持っています。それでも、ここまでこの漫画を読んできた人なら分かると思いますが、決して彼女達は忌むべき存在でも気持ち悪いわけでも頭がおかしいわけでもないんですよ。

 「みんな違うのが普通」の世界の中で、その「違い方」がちょっと一般的でないだけ。大多数の側でないだけ。なのに、それを「普通じゃない」「気持ち悪い」という事とすり替えてしまうのは、余りに乱暴じゃないか。


 4巻冒頭話と過去編は、そんな事を形を変えて描くことによって、百合というものを「大多数ではないけれど当たり前のもの」として読者の中へ落とし込む役割を与えられているように思います。


 全く持って隙の無い漫画ですな。ただ読者をキュンキュンさせるだけでなく、構造的にも練り込まれて作られているのが良く分かります。


 ああ、5巻が待ち遠しいなあ。 


  • おまけ

 ところで4巻表紙絵予想*2はビンゴでしたね。わーい。…いや、ちょっと考えれば誰でもわかるか。

 それにしても話の進み具合からも表紙からも4巻で終わるかと思ったら、アニメ化の影響か知りませんけど以下続刊ですね。嬉しいけど。

 でも、もし延長修正にもかかわらず4巻の内容をここまで完成度の高いものに仕上げてるとしたら、それはそれで凄いよなあ。


  • 過去記事

 →ささめきこと 1・2巻 感想

 →ささめきこと 3巻 感想

 

*1:by「純水アドレッセンス」

*2:3巻記事参照