まんが極道 1・2巻


 戦争映画、というジャンルがある。ご多分に漏れず自分も好きなジャンルなのだが、じゃあ戦争が好きかって言うとそんな訳は無い。実際に殺したり殺されたりする本物の戦争が好きで好きで堪らない、なんて輩はこの世にほんの一握りしかいない(よな?)。それでも多くの人が忌避するであろう「戦争」を切り口とした創作物は、いつまで経っても無くならない。何故か。言うまでも無く、そこでは極限状態の人間が描かれているからだ。そう、極限状態の人間心理や行動を客観的に見つめる事は、内省と好奇心の満足を含んだ立派なエンターテインメントの形式なのだ。


 ちょっと前置きが長くなってしまったけれど、それら戦争映画と全く同じ構造を持った漫画がこちら。


まんが極道 (BEAM COMIX)

まんが極道 (BEAM COMIX)

まんが極道 2 (BEAM COMIX)

まんが極道 2 (BEAM COMIX)

 
 唐沢なをき先生がオムニバス形式で描く漫画家や編集者の悲喜交々。ディフォルメの効いた絵で一見コメディ主体の漫画かと思えるが、これがとんでもない劇物。売れっ子漫画家や売れない漫画家や同人上がりや自称漫画家や漫画批評家気取りといった連中の、成功や失敗や不幸やイタさやみっとも無さや身勝手さや叫びや妥協を、吐き気がするくらいストレートに描いた、非常に精神破壊力のある漫画です。

 全編から「どうだ!世界はこんなにも残酷だ!!」と言わんばかりのエネルギーに満ち溢れています。

 1巻を読んだ時の、頭をモーニングスターでゴスッと殴られたような衝撃は今でも忘れられません。あっという間に脳内唐沢作品ランキングでトップに躍り出てしまいました。これはいい。

 
 たとえばこちらは1巻収録の「枕営業」。体を使ってデビューした女性漫画家の話。

 この話のオチが残酷すぎて素晴らしいので、興味を持った方は是非自分の目で確認して欲しい。自分は本気で気持ち悪くなりました。



 また、こちらは2巻収録の「パクリ」での自称批評家達のパクリ論議

 わーお、気持ち悪うい。自省を含めて実に嫌な気分にさせてくれます。最高。


 あんまり書くとネタバレになってしまうのでこの辺にしておきますが、漫画好きほどダメージを喰らうように計算された素晴らしい漫画です。「漫画家残酷絵巻」なるオビの惹句は伊達じゃありません。


 また、基本的には1話完結なのですが、登場人物は同じ人が何度も出てくるので段々情が移ってきます。身勝手でモラトリアム主義でどうしようもない連中なのに、ふとした瞬間にちょっと愛おしくなる。それはまさに戦争映画の中に人間の愚かさを見、その愚かさにこそ「人間らしさ」を感じてしまうのに似ている。そこまで味わう事の出来る、実に良く出来た残酷物語。

 個人的には「アオイホノオ」と並んで今一番面白い「漫画をテーマにした漫画」です。


 漫画が好きで好きで堪らない人なら、きっとこれを読んで強烈に何かを感じる事が出来ると確信します。良いか悪いかは別にして。