チェーザレ 破壊の創造者 1〜4巻


チェーザレ 破壊の創造者(1) (KCデラックス モーニング)

チェーザレ 破壊の創造者(1) (KCデラックス モーニング)

チェーザレ 破壊の創造者(4) (KCデラックス モーニング)

チェーザレ 破壊の創造者(4) (KCデラックス モーニング)

 
 歴史上に実在したもう一人のカエサルチェーザレ・ボルジア」を描く物語。ルネッサンス期を舞台に描かれており、かつて授業で習った有名人や語句がどんどん出てくる様は「ピルグリム・イェーガー」のようで中々に興奮します。レオナルド・ダ・ヴィンチコロンブスマキャヴェリメディチ家、ドメニコ会などなど。

 ただしこちらは「ピルグリム・イェーガー」のようなトンデモ伝奇アクション物ではなくて、史実をベースに丁寧に描かれた正統派の人間ドラマ。膨大な資料と専門家の監修の下、非常に完成度の高い人物伝として仕上がってます。とはいえ堅苦しいものではなく、きちんとエンターテインメントとして成り立っているのがこの漫画のすごい所。確かに1冊ずつが厚く*1、また情報量も多いため読むのに多少時間が掛かりますが、それに見合った知的好奇心の満足と興奮を与えてくれます。


 4巻までの物語は、文武両道の天才型主人公「チェーザレ」と、凡人で抜けてるように見えて稀に正鵠を射る天然型準主役「アンジェロ」を主軸に、ボルジア家の政治力拡大の為に大学に所属しながら智略を巡らすチェーザレの姿が描かれています。


 こんな人にオススメ。

西洋史に興味がある人

惣領冬実先生の漫画が好きな人(当たり前)

・「BANANA FISH」や「YASHA」で見られるような、一見凡人に見える人と天才の深みのある関係性*2が好きな人。

・腰を据えて濃くて良質な人間ドラマを読んでいきたい人。(現状4巻まで刊行していますが、チェーザレの没年までこのペースで追っかけていったら大長編になる見込)


 これ、本当に完結までこのクオリティで描かれたら歴史漫画として相当な傑作になるよ。長年の鍛錬で培ってきた漫画嗅覚*3から言って、4巻までの時点ではっきり言って良い匂いしかしない。


 また、単行本の中に出てくる解説文は時間のある時でも構わないので読む事を勧めます。物語をより深く理解し、楽しむ事が出来ますので。


  • 以下4巻までの感想で言いたい事。ネタバレ反転。

 とりあえず4巻まで読んで思ったのは「ミゲルは本当に良い男だなあ」って事。ミゲルってのはチェーザレの片腕的存在で、彼に仕える事が生き甲斐だと自ら言い切ってるほどの人間なんですが、4巻でアンジェロと話してるときに自分の本音を喋っちゃうわけですよ。「あまりチェーザレを信用するな」とか「彼の力量は認めるが人としてはどうかと思う」とか。確かにチェーザレはアンジェロの人の良さを利用してる部分はあるのですが、ミゲルも彼の腹心なんだから当然わざわざアンジェロに忠告する事はない。でも言っちゃう。それはもちろん無欲で天然のアンジェロの魅力によるものでもあるのだけれど、結局ミゲルも性根の部分はお人よしで良い奴なんですよ。ところがボルジア家に拾われた事と彼の生真面目な性格はチェーザレに付き従う事を選択する。チェーザレという規格外の天才の腹心である緊張と荒事の日々において、アンジェロは唯一気兼ねなく話せる友人(悪い言い方をすればガス抜き場所・逃げ道)なんじゃないでしょうか。こういう「強くあらねば!」って人が不意に人間臭さを見せる場面って大好き。土手に腰掛けて話すミゲルとアンジェロの姿は4巻までの中で一番好きな場面です。
 次点は暖炉の前で本を読むチェーザレ(4巻31話)。「何事もほどほどという事か」というセリフで天才の孤独を描き、即座にそれすら客観視して「いや、得てしてそれが難しい」と冷静になってしまうチェーザレの姿は、異形と呼ぶに相応しいほどに人間離れしている。上記のミゲルとアンジェロの場面に比べ、何と冷たくて寂しい場面だろう。ちょっと泣きそうになったわ。
 まあそれがあるから、その後の祭りで彼がはしゃぐ場面が生きるんですけど。いやホント、すごい構成力。


 
 

*1:単価も高い。780円

*2:エロい意味にあらず

*3:何ソレ