ふたりごと自由帳
- 作者: 小坂俊史,重野なおき
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2007/07/06
- メディア: コミック
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期待が良い方向に裏切られるのはいつだって気持ちが良い。
小坂俊史作品は結構好きで、「ハルコビヨリ」と「せんせいになれません」は単行本買ってる。一方、重野なおき作品は「Good Morning ティーチャー」を一時期「まんがライフ*1」買ってた頃に読んでた位で、面白いなあとは思いつつも単行本に手を出すまで至っていなかった。
ただ、それらは共に普通の4コマ漫画、つまりコメディ主体の出来だったので、書店で最初この本を見かけた時も、二人の同人誌で発表した作品を集めたというだけで同じ方向性のものとばかり思っていた。ところが装丁を良く見ると、単なるコメディ作品とはどうにも違う匂いがする。
そこで「さて、どんなもんだろう」と思って買って読んだ所、これが大当たり。「なんだよ!二人ともこういう漫画も描けるのかよ!隠してるなんて人が悪いぜ」と一人ニヤニヤしながら一気に読んでしまった。いやあ、作者買いって稀にこういう事もあるから楽しいよなあ。
両者の作品とも、内容は商業誌で連載しているコメディ主体の形ではなく、10代後半〜20代くらいの人々の日常の心の機微を捉えたショート集。その登場人物のモノローグを軸に進行する一見地味な物語達は、的確な場面描写と相まってじわじわと心の中にしみこんでくる。
全く、二人とも地味で目立たない性格の人間が何を思って生きてきたか的確に描きすぎですよ。特に小坂俊史の方では「ああ、あるある」と思った事が何度あったか。
それではサクッと感想を。
ネタバレ含むんで読んでない人は回れ右で。
<小坂俊史編>
・「もう会わない人」…うわー、わかるわコレ。臆病者ってなんでこんなにみっともなくて愛おしいのかねえ。
・「夕立ち」…あー、これもわかるなあ。夕立の日の薄暗い教室とか自分も大好きだったもん。分厚いカーテンの湿った匂いとか思い出しちゃったよ。
・「女子旅に出る#2」…最後は髪の長いほうの女の子の写真を撮って終わりかな、と予想したらそうはならず。そこでようやく梓の方も毎週の旅行を楽しみにしてて、「最後の一枚」を撮ってしまわないようにしてる事に気付いた。うまいなあ。
・「26.5」…もう心当たりがありすぎてギャフン。
・「春にして君を思う」…P.77の夭折の話は良く分かるなあ。ま、実際は夭折しながらも世に認められない画家作家なんてのは山ほどいるんでしょうけど。
・「やがて忘れること」…P.84の偲ぶ会みたいな事は自分も実体験あります。葬儀が始まる前から同窓会気分の同級生達を見てて気持ち悪くなったなあ。クラスで一番親しい友人だったから自分は悲しむだけで精一杯だったけど、たいして親しくないとそんなもんなんでしょうね。
P.85の机の花の話も良く出来てる。要はその人が死んだという事実をリアルに感じた瞬間が何時か、って事だよな。
<重野なおき編>
・「どこまでも青」…本当に中学生くらいの頃ってこうだよなあ。熱しやすく冷めやすくて。でもって自分はとも美(主人公)の側の人間だったと思う。途中で抜けた人達を非難しないのも良く分かる。それは自分が正しいとか相手が間違ってるとかじゃなくて、彼女等と疎遠になるのが薄々わかっていながらも、後味が悪いからやめないというだけの事。結局どちらもワガママなのだ。二人が長い間友人関係を保ったという事を「それを知ったのは、ずっと後になっての事だった」という言葉で表すのも秀逸。こういう空気は好き。
・「昔むかしのよくある約束」…いいねえ、こういう一歩引いたオチって。劇的で「熱く」なくたって、そこには「温かい」と言うべき程良い温度がある。
・「君に幸あれ」…ああ、良い話。自分の恥ずかしさに気付いて泣いてしまうような良い子なら、きっとこの先も友達でいられるでしょうね。
・「サブリミナル」…冒頭から二人が結婚するって事は分かってたんですが、P.194〜198の展開が良い。甘いじゃねえかこの野郎!
とまあそんな所。全体的に小坂俊史編は暗めというか内省的で、重野なおき編は物語的で恋愛方向に振っている感じ。
でもどちらも非常に面白いです。西原理恵子の「はれた日は学校を休んで」みたいに、時々読み返す漫画になりそう。流石に同人誌までフォローする元気はないんで、是非続編も出して欲しいなあ。
- 余談
とりあえず悔しいのは自分が20代前半の頃にこれを読めなかった事。多分当時に読んでたらもっと「来た」だろうなあ。つまり今現在20代で、自分がどう転んでも脇役にしかなれない事にうすうす気付いちゃってるオタク野郎はとっととこのマンガを買って読んどけって事ですよ。
*1:それともライフオリジナルだったっけ?