イキガミ1・2巻

イキガミ―魂揺さぶる究極極限ドラマ (1) (ヤングサンデーコミックス)

イキガミ―魂揺さぶる究極極限ドラマ (1) (ヤングサンデーコミックス)

 生命の尊さを国民に実感させるために作られた法律「国家繁栄維持法」。その法律の下、6歳になった全国民は1000人に1人の確率で死に至る注射を打つ事を義務付けられている。死の注射に仕込まれたナノカプセルは18〜24歳になった時に発症し、確実に命を奪う。主人公の仕事はその対象となる人に死亡予告証―通称「逝き紙」を届ける事。 「あなたの命はあと24時間です」と宣告された時、あなたはどうしますか?

 あらすじはそんな所。数話完結の章立てで「イキガミ」を届けられた人間の最後の一日を描く形式。「死神もの」ってのは今までの漫画でも結構あったけど、これはそれをかなりリアルにした雰囲気。
 犯罪に走る者、最後の一日を懸命に生きようとする者、ただ愛する人のもとへ行こうとする者…それぞれの最後の一日の姿が胸に迫る。その一方で「国家繁栄維持法」に疑問を持ちながらも職務を遂行していく主人公の独白もまた興味深い。

 1000人に1人という確率も良く出来ていて、丁度口コミで伝わるか伝わらないかのレベルだと思う。「どこの誰それがイキガミ貰って死んだ」って事、つまり維持法の注射がブラフではなく0.1%の確率ながら確実に命を奪うものである事を実感して育つ事になる。
 国家の名の下に国民の0.1%を殺害するこの法律は、もちろん人道的には許されるべき法律ではないと誰もが考える一方、劇中である公務員が語る通り「犯罪率が減少し出生率と国民総生産が上昇する」効果があるであろう事も想像できる。
 という具合に舞台仕立ては非常に現実的に出来ていて、その中で見せられる人間ドラマは一層「血の通った」ものとして読者に訴えかける。

 
 確かに今の形でも漫画として面白い一方、先人の代表格である『死神くん』(えんどコイチ)がそうであったように、どこかで主人公と体制*1との衝突を描かざるを得ないだろうなあ。酷い言い方だけど、この手の漫画は主人公が悩まなくなったらつまんないもの。
 まあでもしばらくはイキガミ対象者の良質な人間ドラマを見せてくれそうなので、次巻以降も期待。

  • 余談

 実際は現実の社会も同じようなもので、何時/誰が/どこで理不尽な事故や病気や死に出遭うか、誰も知らない。この漫画の「国家繁栄維持法」はそれを国民に実感させる為だけに作られている。フィクションとはいえ良く出来た法律なだけに、どっかのバカが同じような事を言い出しかねない危険性があるな、今の日本は。
 「国あっての国民」か「国民あっての国」か。感情論で言えば答えは簡単なんだけどな。

*1:『死神くん』の場合は死神の規律、『イキガミ』の場合は国家