少年少女ランドマーク


少年少女ランドマーク (IKKI COMIX)

少年少女ランドマーク (IKKI COMIX)

 今年の漫画ナツ100で取り上げた「家族ランドマーク」を描いた大澄剛先生の新作。


 前作は家族愛をテーマにしたホームドラマでしたが、今回は恋愛や恋愛未満の感情を描いたラブコメ短編集になっています。ただ、単なるラブラブ話ばかりではなくて、別れ話や異性への単純な憧れを描いたりもしていて、ラブコメというよりは「男女の出会いや付き合いから生まれる心情を丁寧に描いた連作」といった所でしょうか。長いですね。

 また、この短編集は全9話で構成されているのですが、登場する中学生〜青年の少年少女の中には複数話において出てくるキャラもいて、全体に緩やかなつながりを持たせています。とある町の少年少女達の風景を切り取って描いている感じです。


 で、見所を一言で言うと「アベコ」。


 各9話ともにそれぞれの味があって、甘酸っぱかったり切なかったり暖かかったりで非常に良い出来なのですが、中でも自分が強力に惹かれたのは2話・7話に登場するアベコという女子高生。


 ゴーイングマイウェイが服を着て走り回ってるような性格で、とにかく自由で奔放でお気楽。徹底的なまでに「陽」のキャラクターです。まあ、その奔放さゆえに、人によっては彼女を疎んだりもしますが。


 そんな彼女に興味を持ち、彼女の観察日記をつけるようになったガリ勉男子を描いているのが第2話。そして、彼女に勇気付けられる事になった周囲になじめない小学生を描いているのが第7話。

 共にアベコによって、無機質な日々やモヤモヤをちゃぶ台をぶっちゃけるようにひっくり返された男の子達なわけですが、彼らを変えたのは説教でもそれっぽい教訓でもなくて、ただ毎日を思いっ切り楽しんで笑ってる彼女の姿そのものなんですよ。それがいい。


 だって彼女ときたらこーんなイイ笑顔するんだもの。

 

 そりゃ惹かれますって。


 元々デコっぱちも企むようなニシシ笑いも好きな自分ですが、繰り返し出てくる彼女の「全力で楽しんでる感」溢れる笑顔には見事にやられました。

 で、この笑顔って誰かに似てるなー、と思って読んでたんですが、先日それに気付きまして。それはこちらの人…というか御方。


 →ビリケン Wikipedia


 そう、かのビリケンさんにそっくりなんですよ。下ふくれで釣り目糸目でニンマリ笑顔。詳細はリンク先を見て頂くとして、簡単に言っちゃえばビリケンさんというのは民間信仰レベルの幸運の神様。特定の宗教体系に属しておらず、ただ人々の生活と近いところに居るという、個人的にはとてもツボにはまるナイス神様です。


 そんなわけで、前述の男の子二人にとってアベコはビリケンさん的な存在だったんだろうな、と思います。幸運の神様。笑顔の使者。笑う角には福来る。とか何とか。


 そうですよ。笑って過ごせる毎日ってのは問答無用で幸せで、その笑顔は幾千の指南書よりもずっと確かな温度を持って隣の人を勇気付けるんです。


 そして、笑顔は繋がっていく。

 

 なんて素晴らしい。


 こういう事をシンプルに・きっちり魅せてくれる漫画は大好きです。

 作者は新人さんとの事ですが、今後に大いに期待しちゃいます。続刊が楽しみ。