薔薇のかたちのシ


薔薇のかたちのシ

薔薇のかたちのシ


 なんとなく表紙買いして、鈴木志保先生の漫画をこの度はじめて読んでみましたが、気付いたら泣いてました。


 ああ、こりゃスゲエわ。オビには「漫画界きっての詩人が贈る」って書いてあるけど、詩なんてもんじゃない。こいつは完全に読む音楽だ。


 メルヘンチックな絵、叙情的な台詞回し、独特の言葉のリズム、絵本のような大ゴマといった要素全てが、幸せで残酷で透き通った出会いと別れの歌を紡ぎだす為に機能しています。


 読後も「そうか、こういう漫画の描き方があるのか。これは面白い。面白い事になってきた」とニヤニヤすることしきり。

 いやはや、こういう事があるから漫画読みはいつまで経ってもやめられません。


 お話は、若くして死んだ少女「キャサリン・モーレー」が薔薇に転生して、てんとう虫や汽車やカラスと共に世界を巡るという連作もの。


 表紙絵の通り舞台仕立てはかなりメルヘン寄りですが、この漫画の面白いのはただのメルヘンで終わらない所。決して甘ったるくて幻想的なだけの世界じゃあなくて、この漫画は色々なエピソードを通じて「幸せの在り処」について物凄く真面目に訴え続けているんですよ。

 しかもそれが説教臭いものではなく、ちょっと変調を織り交ぜた軽妙な音楽のように描かれるものだから、するりするりと腑に落ちてきます。


 特に最終話のクライマックス部分、まあCDで言う所のラス曲のサビの部分の盛上がりがまた素晴らしい。
 
 ネタバレは避けてわかる人にだけわかる書き方をしますと、「足りないものが、なーんにもない」見開きの美しい事と言ったら、もう堪りません。画面から暖かい和音が聞こえてきそうで、私はここで思わずポロッと泣いてしまいました。


 ああ、ちくしょう、いいなあ。何でこんな漫画描けるんだよ。


 いやー、こいつは面白い漫画家さんを見つけました。追って既刊も聴いてみる事にします。

  • 余談

 逆に言えば音楽ですから好き嫌いがはっきり分かれそうな気はします。この絵やテンポが合わない人には厳しいかと。ただ、表紙絵だけ見て「何だ、少女趣味のメルヘン漫画か…」と切ってしまうには余りに惜しいクオリティ。

 騙されたと思って是非一読を。