カラスヤサトシ4巻感想と二人のカラスヤ先生の話
- 作者: カラスヤサトシ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/05/22
- メディア: コミック
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なんと4巻!!いや、正直参った。恐れ入りました。
「カラスヤサトシ」という漫画の1巻を読んだ時、カラスヤサトシという漫画家の痛さとツッコミ性能にいたく感心したものでしたが、カラスヤサトシはそれだけで終わらず、「萌道」「おのぼり物語」等のマンガを世に出し、なおかつ原点である「カラスヤサトシ」も未だに巻を重ねている(ややこしいな…)。
これって実は物凄い事で、実生活をベースにした漫画で、これだけのネタをこれだけのクオリティでコンスタントに出力できる漫画家さんってのは、そうはいません。
前回の感想でも触れたとおり、カラスヤ先生の最大の能力はそのツッコミ性能=客観性なわけですが、今日はそのあたりについてちょっと詳しく書いてみます。
奇行とか変な発想とか自意識過剰っぷりとか変わった趣味とかドMとかオタク性向とかがカラスヤ先生個人の「持ち味」なわけですけど、当然それだけではここまで面白い漫画には仕上がりません。これってちょっとおかしいんじゃないか、ズレてるんじゃないか、という所を鋭く客観的に捉えて、笑いに変えてしまうからこそ、漫画として成立しています。
言い換えるなら、「軸のぶれているカラスヤ先生」を徹底的に客観視できる、「軸のぶれていないカラスヤ先生」が、この漫画を描き出していると言えます。
それは他の自虐ネタ漫画が軸足を「自分」に置いて、「変な俺を見て!面白いでしょ!」というスタンスで描かれるのとは趣を異にしています。というのも、カラスヤ先生の場合は軸足はあくまでも「世間一般」であって、自分を見せる事/アピールする事には主眼を置いていないんですね。その為、自分のネタ以外の、世間で起きるおかしな事*1に対しても敏感に反応し、その「ズレ」を的確に描き出すことが出来ています。
そういう意味でカラスヤ先生の中には、漫画で描かれているのとは想像も付かないほどに、全く偏りの無い完璧なまでの常識人がいると確信します。
そして何より凄いのは、その「もう一人のカラスヤ先生」が、おそらくは頭の中で日常的に世界のズレに対してツッコミを入れ続けている事。だってそうでもなければ、これだけたくさんのネタを日常生活から拾って来れませんって。昔あった事のネタなんかも良く出てきますし、相当に頭が良い人だと思います。普通二人の自分をフル稼働させてたら頭が疲れて仕方ありませんよ。
いやはや、この観察眼と客観能力と記憶力は凄いです。冒頭に書いたとおり、参った!としか言いようが無い。まさかこれほどの底力のある漫画家さんとは思いませんでした。
施川ユウキ先生と同じく、日常生活をきちんと「笑い」へ引き上げる能力を持った稀有な漫画家さんです。
単なるオタクネタ漫画として読み飛ばすのは余りに勿体無い。今更ながら大プッシュでございます。
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*1:例えばT田氏