月光橋はつこい銀座


 

月光橋はつこい銀座 (バーズコミックス)

月光橋はつこい銀座 (バーズコミックス)

 以前感想を書いた「私という猫」のイシデ電先生の新刊。前情報全然知らなかったんで店頭で見たときは歓喜でしたよ。


 こちらは昭和の香りが残る下町商店街の子供達を描いたハートウォーミングなお話。とはいえいわゆる「泣かせ」の展開ではなく、虫捕りや夏祭りや夏休みといった子供の日常とそこで生まれる心情を描いていく、という連作物。そしてその丁寧で優しい描写は、自分の子供時代の日常がどれほどワクワクで悲しくて大事な物だったか、という事を思い出させてくれます。これはいい。

 元気一杯でおバカなタケも、思春期の入り口で悩むノリも、その家族や友達達も、凄く良いキャラしてます。またこの漫画で良いのは、子供はもちろん大人も全然完璧ではない所。その為、子供の中の「大人」に懐かしさと頼もしさを、大人の中の「子供」に共感を感じるという、面白い構造になっています。


 「私という猫」でもそうだったんですが、この人の漫画って「正しさ」とか「理想」を描かないんですよね。綺麗なフィクションを描かない、というか。逆に悲しい事やみっともない事*1も隠さないで全てを的確に切り取って描く事で、「喜怒哀楽のある日常」こそが人を少しずつ少しずつ成長させていく、というテーマを提示しているように思います。

 余り叙情に寄りすぎず「場の空気」をきっちり描く事で、読者に(何かを与えるのではなくて)何を拾うかを選択させる、というスタイルは黒田硫黄先生に近いと感じました。こういうの大好きです。


 いや、これは是非続き読みたいなあ。どこかでの連載再開を切望します。

  • 過去記事

 →私という猫 感想


  • 余談

 さっきイシデ電先生のブログ見たら「私という猫」の続きが始まってました。っきゃああああ!ハラショー極まりない!

 これは2巻出るな。うん、出るに違いない。つーか出してくれええ。


 

*1:「私と言う猫」で言うなら死に際の猫のリアルな描写。「月光橋…」で言うなら父親の夜遊び