てるてる天神通り 1・2巻

 

てるてる天神通り 1 (角川コミックス・エース 135-6)

てるてる天神通り 1 (角川コミックス・エース 135-6)

 
てるてる天神通り (2) (角川コミックス・エース 135-7)

てるてる天神通り (2) (角川コミックス・エース 135-7)

 神様の力を使うことが出来る「天神通りの町内会長」になってしまった少年「天志(たかし)」のお話。その隣の和菓子屋の看板娘にして幼馴染の「御菓子(みかこ)」との恋愛未満の甘酸っぱい展開も含みつつ、基本的には下町ハートフルコメディ。

 一見粗暴に見えて根は優しい主人公とか、「わし」や「…じゃ」という言葉遣いをする座敷童的な「福の神・おフク」とか、天然ほんわか系で自分の気持ちにも気付かない鈍ちんな御菓子とか、キャラ立てはとてもスタンダード。また、振り回し型のお姉さまキャラ「頼子」やそば屋の年中元気娘「冬子」、おちゃらけキャラで九十九神をちょっと使役できる骨董屋の「草輔」といった脇のキャラ達も、取り立てて目新しい所はありません。

 更に言うなら、絵も飛びぬけて魅力があるわけでもなく、むしろ没個性な程。


 なのに面白い。とても面白い。


 多分、原因はストーリー展開の丁寧さと、キャラ使いの巧さだと思う。ストーリーは飽くまでも町内ドタバタコメディ+ちょっといい話なのだけれど、そのコマ運び・テンポ・構図全てがとても読みやすく、一読しただけで話がスルリと頭に入る。また、メインキャラ達にわかりやすい性格付けをする事によって、展開や台詞が予想外だったり破綻している事がない。

 言い換えれば「意外性」が全くないのだが、それ故にストーリーに、キャラの可愛さや格好良さに素直に没頭できる。

 人物の意図を推測したり脳内で筋書きを再構築しなければストーリーが把握できない漫画*1と違って、この漫画は受け取り手の作業負担が少ないという意味においてアニメに近い構造をしているように感じる。

 強烈なキャラや予想外の超展開や前人未到の世界観(=言い換えるなら個性)をウリにしがちな漫画という媒体において、あえてスタンダードを貫き、わかりやすいキャラとお話を丁寧に描く事によって「伝達力」をここまで引き上げるとは。多分作者の頭の中(伝えたい事)と読者の受け取り方のズレがここまで少ない漫画も珍しいんじゃないだろうか。

 いやいや、いろんな漫画の描き方があるものです。実に興味深い。


 そんなわけで非常に完成度の高いコメディ+いい話の漫画でした。天神通り商店街がねえ、本当に楽しそうで暖かいんですよ。これはいい。

 漫画初心者はこういう漫画から読むと良いんじゃないでしょうか。良い意味でとても教科書的な漫画です。


 続刊も買い。

*1:もちろんそれはそれで面白い