棺担ぎのクロ。 -懐中旅話- 1・2巻
「あたしたちのあげてるの」
「あたしたちの
棺担ぎのクロ。~懐中旅話~ (1) (まんがタイムKRコミックス)
- 作者: きゆづきさとこ
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2006/03/27
- メディア: コミック
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「サンジュの「かたっぽ」はあたしがいるでしょ?」
棺担ぎのクロ。~懐中旅話~ (2) (まんがタイムKRコミックス)
- 作者: きゆづきさとこ
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2007/06/27
- メディア: コミック
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最初は店頭で1巻の表紙絵を見た時に惹かれてたんだけど、まんがタイムきらら連載との事で普通の萌え4コマ系の作品かなー、と思って買わなかった。
そしたら最近2巻が出て、その上どっかのサイトで評判良かったんで1・2巻まとめて購入。
人語を話す千匹の蝙蝠「セン」を棺に入れて放浪する黒衣の少女「クロ」。いつ終わるとも知れない旅の途中、廃屋に立ち寄った彼女は「ニジュク」と「サンジュ」という不思議な白い子供達に出会う。行くあての無い二人を旅に連れて行くクロだったが、外の世界を知らない二人はどんな物にも興味津々。子供達に振り回されっぱなしの旅を大変とは思いつつ、やがてそれを暖かく感じ始めるクロ。
果たしてクロの旅の目的とは?旅の終わりに3人と千匹は何を見るのか?その答えはまだ薄暗がりの中…
あらすじはそんな所。
読んだ感想としてははっきり言って大当たり。絵柄は萌え系4コマのように可愛らしいんだけど「童話風新感覚4コマ」と謳ってあるだけの事はある、実に味わい深い作品でした。コマ割は確かに4コマ形式ながら、必ずしも起承転結の無いほとんど物語風の進行で、上質の童話や寓話のような寂しさと暖かさの共存する世界を作り上げています。
同系の物語に「キノの旅」があると思うんですが、正直アレはアニメ版の第一話見てイマイチ肌に合わなかったんでそれ以降見てません。個人的にはこちらの方が押し付けがましくなくて好き。まー「キノの旅」の方は原作読んでないんで単純に比較も出来ないんだけれど*1。
さて話を「棺担ぎのクロ」の方に戻しますと、これって構造的にはブラック・ジャックとかムーミンのスナフキンに近いんじゃないかと感じます。どこか影のある孤独な旅人=クロ/BJ/スナフキンで、無邪気な癒し手=ニジュク・サンジュ/ピノコ/ムーミン、という構造*2。一見、旅人達は強くて確固とした信念があって、どこまでも自分の足だけで歩いて行けそうに見えるけれど、その実、自分より無力であるはずの保護対象に心癒されたり、時にはその無邪気故の純粋な視点によって自分の頑迷さや間違いに気づかされたりします。
もーこういうお話は大好き。人はどんなに強そうに見えてもその強さ/硬さは脆さと表裏一体である点、そして本当は癒し手の存在こそが旅を続ける原動力になっている点、その二点はそのまま現実世界――具体的に言うなら親子の関係や先生と生徒の関係――にもあてはまる、普遍的なテーマだと思います。そして、それをきちんと読み物として面白いものに仕上げ、かつそのテーマをぶれる事無く伝えるのは並大抵の技量で出来る事ではありません。その点において、「きゆづきさとこ」という新しい才能に出会えた事を素直に嬉しく思います。ホント、これだから漫画読みはやめられない。
ちなみに2巻の上に書いたセリフが出てきたお話では、不覚にも泣いてしまいました。別に泣かせのシナリオでもなんでもないシーンなんだけど、気づいたらポロッと来てました。物語とセリフと絵柄が違和感無く仕上がってるからこそ、そのテーマがストレートに心に入ってきちゃうんだよなあ。こういうのには耐性低いわ、俺。以下その場面の感想。ネタばれの為反転します。
そうなんだよなー。「足りない足りない」って駄々をこねる人にほんとうに足りないのは、「足りてる事に気づくちから」なんだよなー。そして誰かと手を繋げば「足りる」事に気づき、勇気ある一歩を踏み出した人たちは、きっと何だって出来るようになる。そう、たとえば空を飛ぶ事だって。
いやー、ホント良い話作るわこの人…。
ナツ100の選定前に読んでたら間違いなく選に入れてた、今イチオシの作品。次巻が非常に楽しみです。
−余談
タイトルの最後に「。」が付いてる事、コマの余白がスミベタになっている事から、クロの旅は既に終わっていて、この漫画の全体が誰か語り部による思い出話なのかも知れません(余白ベタは漫画の回想シーンで使われる表現の一つ)、なんて深読みしてみたり。