げんしけん8巻

げんしけん(8) (アフタヌーンKC)

げんしけん(8) (アフタヌーンKC)

 最新8巻は完全に笹原×荻上祭り。他キャラの影が薄い事薄い事。しかも単行本書き下ろしで笹荻話で2話入れてるし。作者も思い入れが強いんでしょうね。いやー、しかしまさか荻上がここまで伸びるキャラとは思いませんでした。雑誌の方は読んでないんで「終わった」って事しか知りませんけど、斑目サイドの話はどうなってんでしょうか。早く最終巻が読みたいです。


 さて、8巻は個人的にかなり盛り上がったんで全話コメントつけましょうかね。例によって未読の人は回れ右!



・44話
 荻チンの過去話。あー、そりゃまあ心的外傷トラウマになるわ。しかも発端はどう見ても同じ趣味仲間の嫉妬だし。とはいえ結果的に好きな男の子を傷つけた自分が許せなくて……ちっくしょう良い子じゃねえか荻上千佳!それに比べて中島のドス黒い事と言ったらもう許せませんよ。元々は同じ穴のムジナである荻上が男の子と付き合い始めたのに嫉妬してやったんだろうけど、なんでそういうみっともない真似をするかね。19Pの彼女らの顔なんて「ホラ、あんたの居場所はココでしょ?」みたいで寒気がします。それと対照的に荻上に絶対に幸せになって欲しいと言う大野でシメ。悪いオタクと良いオタクを描いた一話。良い構成です。


・45話
 38Pの荻上、笹原に看病されて「こんなとこ見られたくねぇのに…」ですって!かーわーいーい!(落ち着け)
 45P〜48Pの夢の話。多分47Pまでは過去実際にあった話なんだろうけど、中島が怒ったのは荻上の為じゃなくて自分の為なんでしょうな。つまり例の悪戯で巻田君が不登校→転校になるまで傷つくとは思わなかったんで、その罪悪感を荻上を「ホモ上」と言ってバカにする同級生に転嫁してぶつけてるわけです。荻上が教室から飛び出して屋上から飛び降りようとしたのは、同級生に馬鹿にされる事よりもむしろ、「自分をかばうように振舞っているが故に憎む事さえ許されない中島」から逃げ出しかったのかも知れません。この辺非常に良く出来てます。グッジョブです。
 52P。ゲームの中のような状況に戸惑う笹原に萌え。そして過去の罪悪感から男と付き合う資格なんかないと思って泣く荻上。切ないシーンです。


・46話
 荻上カミングアウトの回。笹原…いつの間にこんなに交渉上手になったんだ…。そういえば原口の金儲け同人誌の時も現視研初の同人誌の時も結構巧くやってたし、卒業後は編集の仕事に就くくらいだから、折衝事には結構向いてるのかも。それに「妄想は誰にも止められないし」って言うのは笹原もオタクだからこそ言える言葉だよな。この時点で笹原は「ソレ」がどんな妄想原稿だろうと受け入れる覚悟は出来てたんでしょう。だから実際は「ソレを見るまではとりあえず保留にしよう」という交渉が成立した時点で笹原の勝ち。恐ろしい試合巧者っぷり。
 あと82Pの荻上の覚悟と-83Pの大野の「きゅ」が良いです。


・47話
 真っ赤になって待ってる荻上が可愛い。で、105Pの「俺のことももしかして…」からのくだり、ホントに試合巧者です笹原。で、最後まで強気で攻めまくる笹原。もうね、この辺は46話からの流れから言って予定調和なんで展開の予想はついてましたけど、見てるこっちが恥ずかしいくらいのラブラブっぷりですよ。


・48話
 129Pではしゃぐ大野が面白い。で、134Pでまたゲーム脳状態の笹原。たいがい業が深いのう。面白いけど。
 この話で特筆すべきは145Pの荻上の耳打ち爆弾。あんたって娘はどこまで読者を悶えさせれば気が済むのかね。この1シーンだけでも描きおろした価値アリですよ。まったく良い仕事しやがるぜ木尾先生。


・49話
 学園祭+仲違いした漫研のメンバーとの歩み寄りの話。前話のラストでコミケに落選して「マンガ描きません」とか言ってましたけど、アレも荻上の「感情の起伏」を表すエピソードの一つでしかないんでしょうね。で、この話のラストでは「自分が描いた物の責任を一生背負って生きる=マンガを描き続ける/オタクで居続けるしかない」とハラを決める荻上。振っ切れた表情が凛として良いです。


 というわけで珍しく全話コメントしちゃいました。そのくらい面白かったです。最後にオビのコピーについて一言なんですけど、「オタクだから、恋をした。」ってあるんですね。これって「げんしけん」の内容を表すのに凄く適切だと思うわけです。オタクだって人間ですから恋をするのは至極当たり前なんですけど、それを「オタクだって、恋をする」とか「オタクが、恋をした」とは書かないんですね。つまり「電車男」みたいなオタク=一般人より(恋愛に関して)低レベルあるいは一般人とは全く別種の人間という前提の下で描かれた物語(つまりオタクが頑張るからこそ感動的な物語)ではなくて、オタク=ただの人間という視点。確かに、常識の無いオタクもいるし、(荻上のように)人を傷つけるような妄想をするオタクも、性犯罪者に成り下がるオタクもいる。ただそれは一般人だって同じ事であって、「オタクであること=社会不適合者/気持ち悪い/頭がおかしい」わけではもちろん無いのだ*1
 「げんしけん」を読むと感じるのは、どうしようもないくらい彼らが人間くさいという事。それは僕自身がオタクである事による「同類相憐れむ」状態を差っぴいたとしても余りあるほどに、彼らには血が通っている。怒って、笑って、傷ついて、泣いて、恋をして。いったい彼らの何処に蔑むべき要素があろう。ここに描かれるオタクは間違いなく人間だ。そして、「人間だから、恋をした」。ただ、それだけのことだ。

  • 余談

 だからっつって最近はオタク=こだわりのある人=ちょっとカッコイイみたいな風潮も出始めてて、その辺は根っからのオタクとしては少々おもはゆい物を感じる*2。別に好感度の為にオタクやってるわけじゃなくて、なかなか治らない業病みたいなもんだからな、コレは。とはいえ墓まで持ってく覚悟さえ出来てりゃ、こんなに楽しいことは無いんですが。


  • 余談

 最終9巻は12月ですか・・・。しかも受注限定特装版1490円だと?(→げんしけん (9) 限定版) 高いと思いつつも、買ってしまいそうだ…。
 
 ゲスト作家は前回とダブりなしとの事ですが、誰ですかね。流れ的に吉崎観音氏とか来そうですけど、ここは思い切って想定外の人を入れて欲しいですな。えーっと、萌え・オタク系とは別路線で、悪フザケしてくれそうな人で……若杉公徳氏とかどうですかね。


 「まだデートの途中だぜファック!」


 こいつは素敵だ。全て台無しだ。

*1:もちろんオタク全員を擁護するわけではありません

*2:特に女子のいる飲み会いわゆる合コンとかで「俺って何々オタクだからさァ」とか自慢気に話す奴とか見るとちょいウザい