漫画が読めないって…

 今日はこんなニュースから。


【ファンキー通信】マンガが読めない子供たちへ・・・


 なんたる事か!人生の九割九分*1を損してるぞお前ら。


 ええ、真っ当な人生じゃありませんがそれが何か?


 でも確かに漫画の読み方って教わった覚えないよなあ。いつの間にか読んでて、いつの間にか読めるようになってた気が。


 ここからは推測を含めた漫画についての私見
 確かに右上から読む事とか、フキダシは尖っている所が向いている人間が話している事を表すとかの基本的な事は誰かに教わったりするのかもしれないけど、漫画の読み方って文脈で理解していく事の方が多いんじゃないか?


 例えば
・「○。」が付いているフキダシがある→ここでそれを口に出すのはおかしい→これは考えている内容だ。
・変な模様が入った四角いフキダシがあって実況中継の内容を話している→これはアナウンサーの声だ。
・目を閉じる場面があってワク外が黒く塗られてる→主人公の昔の話が展開される→これは回想だ。
・「シーン」という文字が書いてある→誰かが「やだなあ、皆黙っちゃって」と言う→「シーン」は静かさを表す文字だ。
・主人公の後ろに炎が→火事は起こっていない→これは精神的に燃えている表現だ。

と言う具合に。


 実際には絵の雰囲気も助けになるだろうし、読んで一回目でわかるわけではなくて繰り返し色んな漫画を読む事でそれらのルールが徐々に見えてくるのだろうけど。
 ただ、基本的に重要なのは文脈で、「ここにこういう表現があるけど、これはこうでないと話が繋がらない(こうでないと違和感がある)。だからこれはこういう事だろう」というのが漫画のルールを理解するときに生じる脳内反応ではないだろうか*2


 実はまさにこのあたりが、僕が漫画って素晴らしいと思っている部分の一つだ。
 例えば小説なら「彼は落胆した」と文章で書かれる事も、漫画では主人公が俯瞰構図で頭を垂れ、バックに縦線が入った絵があるだけで、一言も「落胆した」という事は明記されていない。それでも前後の話やそれまでにわかっている人物の性向から、例えば「ああ、彼は好きな人に嫌われたから落ち込んでるんだな」と考える。
 つまり漫画を読むと言う行為は絵と言葉を手掛かりに文脈を推測し、脳内に物語を構築しないと出来ない事なのだ。
 漫画独特の表現は多い。小さな子供の脳では、紙に印刷されている絵と文字群を物語として理解する為に、今までの経験と知識を総動員して臨まなければならないだろう*3。従って、漫画を読むという行為は推測する力・文脈を読む力を養う事が出来ると僕は考える。

 「ここはこうでないとおかしいだろう」「ここはこう思っているんだろう」…と(無意識的にでも)考える事の繰り返しトレーニング。それは国語のテストに置き換えるならまさに「ここで彼が何を考えているか50字以内で述べなさい」という事。国語の苦手な人が「オマエが何を考えてるかなんて知るか!」と言うこの手の問題は、言うまでも無く読解力・推察力を測る問題だ。漢字の暗記や文法はさておき、読解力・推察力ってのはなかなかトレーニングが難しい。国語の苦手な人ってのはこういう問題にこそ苦しんだのではないだろうか。もちろん(文字だけの)本を読む事がその訓練として最適なのだが、小さい子供にとって文字ばかりの本を読んで理解させる事はハードルの高い行為*4だろう。しかし漫画は絵で楽しませて紙面に注目させ、物語を知りたいという気にさせる事が出来る。それは訓練意欲でも本読んで勉強しなきゃという思いでもなく、単純に「物語を知りたい」という欲求だ。自発的にかつ知らず知らずのうちに行われるトレーニング程素晴らしいものは無い。
 
 つまり漫画と言うのは楽しみながら読解力・推察力を訓練する事が出来る実に素晴らしい媒体なのだ。だからもっと漫画読め子供達。そんでもって漫画家を志して俺が死ぬまで面白い漫画を供給してくれ。(結局それかい)

  • 余談

 漫画のルールを理解する為云々もそうなんだけど、実際は活字・漫画によらず物語を読むと言う行為自体が既に読解力のトレーニングになるんだけどね。で、別に国語のテストの為に漫画読めって言ってるわけじゃなくて、読解力と推察力=与えられた情報から文脈を読む力ってのは一言で言い換えるなら「空気を読む力」なわけで、この辺が無い人間は社会に出ると苦労するよーって話。
 ちなみに自分は仕事上で嫌いな人間と話す場合、空気を読んだ上で敢えて「その場にそぐわない」発言をして相手の気を削いだりムキにさせたりします。我ながら「性格悪いなあ」と思うけど、人をコントロールする上で誠意と理屈だけでは動かん人間もいるのよ実際。

*1:あとの一分はプラモとゲームと食べ物

*2:我々の場合は経験により漫画のルールを既に知っているので、すぐに変換できる。ここで話しているのは漫画の読み方を覚えるまでのプロセス

*3:音情報がないという意味で、漫画はアニメーションよりも更に心的タスクの高い行為だと思う。心的タスクの順番で言うなら「小説>漫画>テレビ・映画=文字情報>文字+映像情報>文字+映像+音情報」。情報が多い程物語の理解の助けになる。

*4:*3で書いたとおり各媒体の中でも心的タスクの最も高い行為