ヨコハマ買出し紀行

ヨコハマ買い出し紀行 1 (アフタヌーンKC)

ヨコハマ買い出し紀行 1 (アフタヌーンKC)

ヨコハマ買い出し紀行 (14) (アフタヌーンKC (1176))

ヨコハマ買い出し紀行 (14) (アフタヌーンKC (1176))

終わっちゃいましたねえ。
ついこの間1巻を買ったと思ったら、あれからもう12年ですか。年をとるわけだよ。

人の世がゆっくりとゆっくりと終わりに近づいていく時代。喫茶店「カフェアルファ」を経営する人型ロボット「アルファ」を中心に、のんびりと、ゆったりとした雰囲気で進む日常のお話。

 んー、この漫画はあらすじ書くの難しいな。絵の雰囲気とかシチュエーションの描き方とかが本当に上手で「心地良い空気」を読んでるような漫画だから。でもアルファがロボットなんで年を取らないのに、周りの人間や風景が少しずつ変わっていく部分なんかはちょっと切なかったり。


 この漫画を読んで一番びっくりしたのは、こういう終末観があるのかという事。普通漫画で描かれる「世界の終わり」なんてのはもっと天変地異だったり大戦争だったり、つまり劇的で悲劇的なものなのに、この漫画は違う。年を取らない半獣人「ミサゴ」や空を見つめたまままま動かない子供「水神様」といった断片的な情報はあるものの、世界に何が起こったのかは劇中で明確に語られず、ただゆっくりと終末に近づいていく世界の中で生きる人々を暖かく、柔らかく描いている。彼らから感じるのは「生き抜いてやる!」というたくましさというよりも、「生きてんだから、とりあえず生きるしかねえべよ」といった雰囲気の、肩の力の抜けた前向きさだ(ある意味、諦めなのかもしれないが)。


 最初の巻と最終巻に出てくる「のちに夕凪の時間とよばれるてろてろの時間」「夜の前に」という言葉に象徴されるように、この世界は多分程なく終わる。そして人の世の夜が来る。そして「のちに夕凪の時間と呼ぶ」のは人間ではないかもしれない。それでもこの時代の人間達は確定したこの世の終わり*1に、自暴自棄になる事も戦争で奪い合う事もせず、何世代もかけて終末を受け入れていく*2。そうすることが出来るのは人間の強さの一面だと思うし、この漫画を読んでなにか安心するのは「受け入れる強さ」を人間が持っている事を確認できるからかも知れない。


 この漫画を読んで元気が出るわけではない。世界が終わるのが悲しくなるわけでもない。もちろん終わらせたいわけでもない。 ただ、こうやって「ゆっくりと終わっていく」世界の中で、アルファやタカヒロ達がなんでもないように過ごしている日常を見ていると、ほうっとする。
 作者はよくぞこれだけの独自の世界観を違和感無く作り上げたものだと心底感心する。
 


 では締めとして、多分この漫画を読んだ多くの人が思ったであろう事を一言。



 もし、どうしても世界が終わるとすれば――こういう終わりなら、良いかな…



 いやー良い漫画でした。芦奈野センセ、長い間お疲れ様でした。

*1:多分世界の終末は避け得ない状態だと推測される

*2:60話では街の治安がよくない様子も描かれているが、大規模な暴動や戦争はなさそう