環状線の憂鬱
- 作者: 細野不二彦
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2002/03
- メディア: 文庫
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画像無いけど、上の新装版全3巻なら古本屋行けば見つかるでしょう。
物語はシティジャッカーという少年探偵団が色々な事件を解決してゆく、いわゆる探偵物。
探偵物といっても探偵学園Qみたいな真面目な謎解き主体ではなくて、昔の細野不二彦らしいドタバタコメディもの。
各章それぞれ面白いのだが、今日取り上げるのはその中の山手線の話。
犯人は山手線の運転手で、ある目的から自ら朝の通勤ラッシュの電車をジャックしてしまう。
当然、通勤通学途中の乗客は遅刻必至となり*1最初は騒いでいたものの、やがて車内は諦めムードになっていく。
しかし電車が無理やり路線変更をし、山手線から外れようとした時、状況は一変する。「山手線の電車を環状線から脱出させる」という犯人の意図を理解した乗客の大勢が、なんと犯人の応援をしだすのだ。
「もう少しだ!もう少しだ!」
「あの鉄橋を渡れば東京から脱出できる!」
しかしそこで主人公のシティジャッカー達が借り切った*2電車が登場。後ろから犯人の電車に強制接続し、バックして山手線へ引き戻してしまう。乗客たちは落胆し、犯人はお縄となり、幕。
最初このマンガを読んだのは中学生くらいの頃で、全然意味がわからなかった。
なんで最初は怒っていたり困っていた乗客たちが、急に犯人の応援をしだすのか?
ただ、なんとなく主人公達が(この回に限り)嫌な奴に見えたのを覚えている。
しかし就職して働く身となった今では、この話がとても良くわかる。いや、今だからこそわかる。
この話での山手線は、乗客たちにとって通勤の手段であると共に、毎日毎日ぐるぐると(それこそ環状線のように)繰り返される憂鬱な日常の象徴なのだ。
もちろんこの電車ジャック事件において、そこからの脱出は一時的なものでしかなく、明日になれば同じ時間の同じ電車に乗って同じ会社に行かなければならない。そんな事は乗客たち自身が一番よくわかっている事だ。
しかしそれでも、それでも今日だけはそのループから逃げ出すことが出来る。しかも自らの意思ではなく電車ジャックというやむを得ない事態によって。これが喜ばずにいられようか?(会社が嫌とか嫌じゃないとかそういう話ではなくて、ふっと日常から外れてみたくなることは誰だってあると思う)
そしてそれを引き戻すのが子供達であり、この話での彼らは正論の象徴だ。
会社をサボってはいけない。真面目に働かなくちゃいけない。全くもって正論だ。
しかし正論というのは時に、あまりにも残酷だ。
まるで、子供のように。
「なぜだ!なぜ行かせてくれんのだ!」
犯人の最後の叫びが耳に残る良作。
- 余談
こういう話を少年誌に描く細野不二彦って、やっぱただ者じゃないと思う。
それにしても、ユニコーンの歌もそうだけど働くようになってから本当の意味がわかる事って多いよなあ。学生時代、「働く男」とかカラオケで歌ってたけど、まるでわかっちゃいなかったな。