日本の夏。ロケットの夏。
- 作者: あさりよしとお
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2001/07
- メディア: コミック
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まー夏ってことで思い出した良作を一つ。「宇宙家族カールビンソン」のあさりよしとお氏の短編です。
絵がオタくさいのでちょっと…という人もいるだろうが、実の所これほど真っ当な少年漫画も珍しい。
ストーリーは少年達が夏休みの自由研究に自作のロケットを作り、打ち上げるまでのお話。しかもペットボトルロケットでなく、液体燃料のロケットだ。
仲間がいて、共通の目的があって、技術面での行き詰まりがあって、仲間内の衝突があって、友達との別れがあって・・・。
この漫画を読んでいると、懐かしい感情が―――子供の頃に誰もが経験したであろう感情が、じわりと湧き上がってくる。それは、むき出しの心でぶつかっていたあの頃の気持ちだ。嬉しいも悲しいも好きも嫌いも思い切り吐き出して、ぶつけ合っていた頃の気持ちだ。
大人になった今、我々はよほど身近な人にしか、あるいは切羽詰った時にしか、そうする事が出来ないだろう。
だから、大人はこの漫画を読んでひたすらにあの頃に帰りたいと願う。あるいは彼らの仲間になりたいと思う。
少年漫画、特にこういった荒唐無稽でなく日常を描いた作品がもたらすものは、つまる所あこがれであり、さみしさだと思う。喜怒哀楽全てが濃密だった「あの頃」へのあこがれ、そして「あの頃」を遠く離れてしまったさみしさ。
しかし良作の場合さらにプラスアルファがある。
もちろんこの作品もそれにあたり、おそらくはあえてベタにしてある(であろう)キャラ設定と、巧みなストーリー展開で読者をぐいぐいと作品の中に引きずり込んでしまう。
かくして読者は彼らと一緒にロケットを作りあげ、打ち上げの瞬間を見る。
それはまさに仲間達と何かを成し遂げた、読者自身の「あの頃」の追体験(あるいは擬似体験)であり、それによって得られる読後感は、まさにラストシーンで彼らが見上げる夏の空のように、ただただ爽やかだ。