最初の記憶

 考えてみれば「最初の記憶の瞬間の写真が残っている」というのは随分と稀な例ではないか。

 先日アルバムを見ていたら当時の写真があって、ふとそんな事を思った。
 写真には鏡台の前に立っている1歳くらいの男の子が写っていて、びっくりした顔でカメラの方を向いている。その時自分はある事に夢中になっていて、急に父親に呼ばれたのでびっくりしてそちらを向いた、と記憶している(写真を撮られた、という認識は出来ていない)。

 ある事、というのは影絵遊び。
 その日、鏡台の上に置いてあったレースの敷物を何気なくつまみ上げた所、窓から差す日光で濃い影が出来た。自分がつまみ上げている白いレースと同じ模様の黒は、敷物を左右に振ると左右に動き、歪ませると同じように歪んだ。それが面白くてずうっとそれをこねくりまわしては影の反応を見ていた。

 それが最初の記憶。

 だから、自分の最初の記憶は「影の記憶」だ。

 でも、そこから先に広がる世界は、影のように素直に反応してくれるものでは無かった。

 あれから随分経って色んな経験を積んだけれど、思い通りになる事なんてほんの一握り。


 でもそれは、予想外の結果に終わる事もあれば予想以上の結果に終わる事もあるって事。


 だから、まあ、これでいいんじゃないかと思う。