ミツバチのキス 1巻

「みんな みんな みんな知ってるわ」

ミツバチのキス 1 (アクションコミックス)

ミツバチのキス 1 (アクションコミックス)


 主人公は、触れるだけでその人の過去や未来がわかってしまう少女「草野慧」。利用されていた宗教団体から彼女が脱走する所から、この物語は始まる。

 望まずに得たその能力はまた、人に触れれば自動的に発動してしまうという、彼女にとって忌むべき能力でもあった。


 追っ手から逃れ、ある地方都市の町工場で働く彼女の元に、今度は国家機関の手が延びる。彼女を政府の道具として利用する為に。

 捕獲任務に就いたのは、世界一完璧な書類を作ると言われる公務員「駿河」。彼のチームは着実に慧に接触し、その包囲を狭めていく。


 「政府に捕まる」「人との接触を恐れながら市井で生きる」いずれの道も暗く冷たいという状況下で、少女はどんな道を選ぶのか――

 
 お話はそんな感じ。結論から言うと凄く良い出来でした。面白い!表紙買いでしたが、完全に当たりの部類です。


 お話を一言で言うならサイコメトリー能力を持った少女「慧」と中年の公務員「駿河」を軸にした逃亡劇+人間ドラマ。縦糸で「異能力者」の悲しみと孤独を描き、横糸で彼女を道具扱いする宗教団体や政府の「普通の人間」がいかに非人間的かという事を描く事で、人間の弱さと強さ・愚かさと尊さをコントラスト強く描き出しております。これはいい。


 また、キャラで言うなら主人公「慧」の朴訥さや芯の強さは実に魅力的だし、何よりハードボイルド風の「駿河」が凄く良い味出してるんですよ。それは何でもできるハリウッドの刑事物みたいなスタイリッシュな格好良さじゃなくて、日本の古い刑事ドラマのような不器用な男の格好良さ。自分の任務と自分のしたい事の乖離に悩みつつも、その一方では冷静な判断で着実に任務をこなしていく。その姿がたまらなく良い。

 物語の核心部分に触れる事になるのでこれ以上は触れませんが、彼が異能者と普通の人の狭間で揺れ動く事で、両方の「言い分」を物語の中に落とし込む事に成功しています。巧い構成です。


 もちろん物語の結末についてはここでは申しませんが、正直何気なく手に取った漫画でここまで精緻で美しい話を読めるとは思いませんでした。1本の上質な映画を見た後のような読後感を味わう事が出来ました。ああ、これだけの物がいつでもどこでも味わえるなんて、漫画ってホントに良い媒体だなあ。


 しかもコレが初単行本だとか。しかもコレが1巻だとか。双葉社さん、これはまた面白い漫画家を引っ張ってきたなあ。

 俄然2巻に期待せざるを得ない。


 あ、ちなみに1巻でも一応の結末がついているので、2巻を待ってヤキモキする事もありません。オススメです。